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採用内定取消しの実務対応 その2 採用内定は簡単に取り消せない|企業が押さえるべき法的リスクと対応

労務関係

5. 中途採用者の内定における留意点

内定は新卒を対象にするのが一般的ですが、中途採用者に対する内定の成立を認めた裁判例も古くからあり、近年でも中途採用者に対する内定を前提にした事案が散見されます(インフォミックス事件 東京地裁 平成9年10月31日判決、アクセンチュア事件 東京高裁 令和6年12月17日判決)。

また、派遣労働者などの非正規労働者についても採用内定の成立を前提にした事案もあり(パソナ事件 大阪地裁 平成16年6月9日判決)、新卒ではなかったとしても内定は成立し得ます。

中途採用者の内定取消しについても新卒の場合と同様の判断基準か、事案によっては中途採用者の期待利益に鑑みて新卒者の場合以上に厳格な基準においてその合理性および相当性が判断される傾向にあります。

ただし、経験者採用、特に高位の職位に就くことを前提にした中途採用で実施されるバックグラウンドチェックについて虚偽の申告があった場合には、自ら虚偽の経歴を申告したことによって得た内定の利益を重視することは相当でなく、内定取消しはやむを得ないとして内定取消しを有効とした裁判例もあります(前掲 アクセンチュア事件)。

採用の前提を欠いていたという事情は内定取消しの合理性・相当性が認められるために非常に重要な要素なので、採用にあたり、その前提を明確にすることが極めて重要です。

6. 内定辞退者に対する対応と損害賠償請求

前提として、内定の辞退は労働者の一方的意思表示による労働契約の解除と同視することができることから、内定者はいつでも内定の辞退(解約の申し入れ)をすることができます(民法 第627条1項)。

内定辞退により会社に経済的な損害が生じた場合には、損害賠償請求を行うことを検討することもあるかと思いますが、原則的にはそのような請求が認められることはありません。ただし、内定辞退の申入れが、著しく信義則上の義務に違反する態様で行われた場合に限り、内定者は債務不履行または不法行為に基づく損害賠償責任を負うこととなり、使用者が新たに負担せざるを得なくなった採用活動による費用等が損害として認められる可能性があります。

しかしながら、内定辞退に対する損害賠償請求が認められるハードルは極めて高いですし(たとえば、前掲 アイガー事件においては、内定者の内定先での研修以降のやり取りも踏まえて、勤務開始前日である3月31日の内定辞退の申入れであっても信義則上の義務に著しく違反する態様で行われたものではなく、損害賠償責任を負うものではないとしています。)、請求できる損害の範囲も限定的であることから、レピュテーションリスクの大きさ(内定辞退者に対して損害賠償請求を行った、という事実が一人歩きをするなど)をふまえると、実際に請求をすることは推奨されません。

7. 協議による合意解除にあたっての留意点

内定取消しは解雇であることから、内定者と協議を行ったうえで内定を合意のもと取り消すということも考えられます。このような方法は円満な解決を図る観点で推奨しますが、注意点もあります。

内定取消しというのは、労働者から就労して賃金を得る機会を喪失させるという労働者にとっての不利益が極めて大きい取扱いです。そのため、労働者にとっては合意する理由がなく、仮に(合意書に署名をするなど)外形的には合意形成があったとしても、その合意は自由意思に欠けると判断され、合意は無効であると判断される可能性が高いです。

したがって、労使間で合意形成をしたうえで内定を取り消す場合には、前提としてなぜ内定を取り消さなければならないのかという事情を丁寧に説明し、そのうえで労働者にとって入社をしないというデメリットを緩和させる何らかのメリット(何か月分かの賃金を解決金として支給する、ほかの会社を紹介する、など)を設けることを推奨します。

前提となる説明に虚偽の内容(会社の経営上何ら問題がないにもかかわらず、採用しても1年以内にリストラをしなければならない、など事実と異なる説明をしたなど)が含まれている場合や、労働者にとって十分なメリットが提示されていない、という事情がある場合には、外形上存在する合意について無効であると判断される可能性があります。

8. 解雇予告について

内定取消しは解雇であるという観点から、内定取消しを行うにあたって労働基準法第20条に定める解雇予告または解雇予告手当の支払をしなければならないのか、という疑問を持たれる方も多いと思います。

厚生労働省のパンフレットによれば、「採用内定により労働契約が成立したと認められる場合には、採用内定取消しには、労働基準法第20条、第22条等の規定が適用されます。このため、やむを得ない事情により採用内定取消しを行おうとする場合には、使用者は解雇予告等解雇手続を適正に行う必要があるとともに、採用内定者が採用内定取消しの理由について証明書を請求した場合には、遅滞なくこれを交付する必要があります。」とされています。

そのため、内定取消しをする場合には、30日前に行うことを推奨します。ただし、その期間が30日に満たない場合においては、解雇予告手当の支払までは必要はないとするのが通説です。

支払うべき解雇予告手当の基礎となる平均賃金が観念しえないこと、また、第20条の趣旨が、現に賃金を得て生活をしている労働者に対する生活保障の観点から30日前分の賃金の保障を義務付けるものであることから、労務の提供を開始していないため賃金の支払がなされていない労働者に対しては保障の必要がないこと、加えて、試みの使用期間中の解雇については解雇予告が必要ない(労働基準法 第21条)ことが理由にあげられています。

9. まとめ|内定取消しは「採用時の準備」と「慎重な判断」が重要

採用内定は、単なる「採用予定の通知」ではなく、原則として労働契約が成立したものとして扱われます。

そのため、内定を出した後に「やっぱり採用をやめたい」という理由だけで、会社が一方的に内定を取り消すことはできません。

内定取消しが認められるためには、採用内定後に生じた事情について、客観的に合理的な理由があり、かつ社会通念上相当であることが必要です。

特に重要なのは、「内定を出す前に会社側が確認できなかった事情なのか」という点です。

そのため、内定取消しのリスクを減らすためには、内定を出す段階から、採用条件や内定取消事由を明確にしておくことが重要です。

「企業が押さえておきたいポイント」

  • 採用前に、資格・経歴・経験・勤務条件など、採用の前提となる事項を十分に確認する
  • 内定通知書等に、労働条件や内定取消事由を適切に記載する。
  • 内定期間中の研修や会社行事への参加を求める場合は、内定者との合意や参加条件を明確にする。
  • 内定取消しを検討する場合は、取消しの理由が客観的に合理的で、社会通念上相当といえるかを慎重に確認する。
  • 内定取消しを行う場合は、解雇予告などの手続についても確認する。
  • 内定者との協議によって解決を図る場合も、自由な意思に基づく合意となるよう、事情を丁寧に説明する。
  • 内定取消しに限らず、内定辞退を求める場合にも、強要と受け取られるような対応は避ける。

採用内定は、会社と求職者との間の重要な契約関係です。

「とりあえず内定を出しておく」という対応や、内定後に安易に採用条件を変更・取消しすることは、会社にとって大きな法的・採用上のリスクにつながる可能性があります。

採用の段階で確認すべき事項を明確にし、適切な内定通知・労働条件の明示を行うことが、内定取消しをめぐるトラブルを防ぐ第一歩です。

「このケースで内定取消しをしても問題ないのか」

「内定通知書には何を記載すればよいのか」

など、採用内定に関する対応に不安がある場合は、実際に内定取消しを行う前に、お気軽にご相談ください。

社会保険労務士事務所 人材革新 淺井 烈