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知っておきたい「スポットワーク」の労務管理

労務関係

近年、短時間・単発で働ける「スポットワーク」の利用が急速に広がっています。人手不足への対応に有効な手段である一方、適切な労務管理を怠ると、法令違反やトラブルにつながるおそれがあります。

今回は、スポットワークにおける労務管理の基礎知識と実務上の注意点を解説します。

なお、スポットワークにはさまざまな形態がありますが、本コラムでは、雇用仲介事業者が提供するアプリ(以下「スポットワークアプリ」)を利用して働く形態を対象とします。

1.スポットワークとは

スポットワークとは、1日や数時間単位など、短時間・単発で働く就労形態です。

デジタル技術(DX)の進展により、企業の急な欠員と働き手の「スキマ時間」を迅速に結びつけられるようになり、利用が拡大しています。

(1)スポットワークアプリの普及

内閣府の資料によると、スポットワークアプリ大手5社の延べ登録人数は、2019年12月の330万人から2025年1月には3,200万人へと、9倍以上に増加しています。求人数や求職件数も増加傾向にあります。

スポットワークは、利便性の高さに加え、労働市場における人手の需給のミスマッチを緩和する効果も期待されています。

一方、求人内容と実際の業務内容の相違、指示や教育の不足などのトラブルも発生しています。活用にあたっては、労働条件の明確化や法令遵守、労働者保護への配慮が重要です。

(2)スポットワークの活用例

飲食店の繁忙時間帯への対応、倉庫作業、イベント運営などが代表的な活用例です。

近年では、地方公共団体がアプリ事業者と連携し、農業や観光業などの人手不足解消に取り組む事例もあります。

2.労働契約について

(1)労働契約の当事者

スポットワークの労働契約は、勤務先の事業主とスポットワーカー(スポットワークを行う人)との間で成立します。

スポットワークアプリの事業者は、原則として雇用を仲介する立場であり、勤務先の事業主とは異なります。

(2)労働契約の成立時期

労働契約は、労働者が働き、事業主が賃金を支払うことについて、双方が合意することで成立します。書面だけでなく、口頭での合意でも成立します。

契約の成立時期は個別の事情によって判断されますが、スポットワークでは、面接などを行わず、応募順に就労が決まるケースが多くあります。この場合、特段の合意がなければ、一般的には求人への応募時点で労働契約が成立すると考えられます。

労働関係法令は原則として労働契約の成立後に適用されるため、契約の成立時期を正しく理解しておくことが重要です。

【労働契約成立後のキャンセル】

労働契約が成立した後は、原則として企業側の都合で一方的にキャンセルすることはできません。

企業側の都合で就業させなかった場合、原則として予定していた賃金の全額を支払う必要があります。ただし、労働基準法上の休業に該当する場合は、平均賃金の60%以上の休業手当を支払う対応も考えられます。

企業側に解約を正当化する事情がある場合は例外もありますが、解雇と同様に厳しく判断されるため、認められるケースは限られます。

また、スポットワーカーに説明し、双方の合意によって解約することは可能です。ただし、本人が真に納得していない場合、後から合意の有効性を争われるおそれがあります。

(3)労働条件の明示

スポットワークでも、企業には賃金、労働時間、業務内容などの労働条件を明示する義務があります。また、労働条件を変更する場合は、原則として労使双方の合意が必要です。

法令で定められた事項については、書面など所定の方法で明示しなければなりません。

アプリ事業者が労働条件通知書の交付を代行する場合でも、必要な項目が網羅されているか、内容に誤りがないかを企業自身で確認しましょう。

3.労務管理における主なポイント

(1)適正な労働時間管理

スポットワーカーについても、労働時間を適切に把握し、その時間に応じた賃金を支払う必要があります。

始業前の着替えや作業終了後の片付けなども、事業主の指示によるものであれば労働時間に含まれます。

また、実際の勤務時間が予定と異なり、スポットワーカーから修正申請があった場合は、速やかに確認し、適正な労働時間を確定することが重要です。

(2)適切な賃金支払い

スポットワーカーにも賃金支払いの5原則が適用されます。賃金は、原則として通貨で、直接労働者に、その全額を、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければなりません。

賃金の未払いなどはトラブルにつながるため、勤務実績を正確に把握し、適切に支払いましょう。

(3)休業時の対応

企業の都合で急に業務を中止した場合や、予定より早く帰宅させた場合など、使用者の責任による休業に該当するときは、休業手当の支払いが必要です。

なお、休業手当の代わりに、予定していた賃金の全額を支払うことも可能です。

4.スポットワーカーの保護

スポットワーカーが安心して働ける環境を整えるため、通常の労務管理に加え、次の点にも注意が必要です。

(1)安全配慮義務

企業には、スポットワーカーが安全かつ健康に働けるよう配慮し、労働災害を防止する義務があります。

例えば、機械設備の危険箇所を周知する、安全装置の使用方法を教育するなど、業務に応じた安全対策を講じましょう。

(2)ハラスメント対策

スポットワーカーに対するパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントを防止するため、適切な対策が必要です。

相談窓口やハラスメント行為者への対応方針を周知するほか、公的な相談窓口も案内しておくと、安心して働ける環境づくりにつながります。

(3)労働災害発生時の対応

スポットワーカーも企業と雇用関係にあるため、労災保険の対象となります。

業務中や通勤途中にけがなどが発生した場合は、まず被災者の救護と二次災害の防止を優先し、その後、労災保険給付の申請や労働基準監督署への報告など、必要な対応を行います。

5.その他の実務対応

労務担当者は、保険や税に関する手続きについても理解しておく必要があります。

(1)労災保険

スポットワーカーにも労災保険が適用されるため、企業には労災保険料の負担が生じます。

労働保険料の申告時には、スポットワーカーに支払った賃金も漏れなく算入しましょう。

(2)雇用保険・社会保険

スポットワーカーは、短時間・単発の就労であれば、原則として加入対象外となります。

ただし、反復継続的に働くなど、就労状況によっては加入要件を満たす場合があるため、個別に確認する必要があります。

(3)所得税

スポットワーカーへの賃金支払いについても、所得税の源泉徴収が必要となる場合があります。

日雇賃金に該当する場合は、原則として源泉徴収税額表(日額表)の「丙欄」を用いて税額を計算します。実際の適用にあたっては、雇用契約や支払いの状況に応じて確認しましょう。

6.まとめ

スポットワークであっても、労働契約が成立すれば、労働基準法などの法令が適用されます。

特に、労働条件の明示、労働時間の把握、賃金の適正な支払い、労災保険の処理を怠ると、トラブルや法令違反につながるおそれがあります。

スポットワークを一時的な人手不足対策として捉えるだけでなく、「一人の労働者を雇用する」という意識を持ち、適切な労務管理体制を整えることが、安全で継続的な活用につながります。

社会保険労務士事務所 人材革新 淺井 烈